信頼していた社員が、辞める。
会社を立ち上げたときから、一緒にやってきた人だった。
そして、こう考えます。
「給料が足りなかったのかな」
「もっと待遇を良くしていれば」
僕は起業して12年、500名を超える経営者の方と向き合ってきました。実際に起きた退職を、社長本人と一緒に分解したことがあります。
そこで出てきた答えは、待遇ではありませんでした。
人を辞めさせるのは、曖昧さです。
出てきたのは、この4つでした
その社長が、自分で書き出した原因がこれです。
- 雇用契約書、就業規則、歩合の規定が曖昧だった
- 歩合が遅れていたことへの、説明が不足していた
- 人事評価の制度が曖昧だった
- リモートで働くときの行動指針が無かった
全部、「決まっていなかった」という話です。
給料が安かった、という項目は1つもありません。
そして、もう1つ挙がっていました。
「自分が何をしたいのか、なぜいろいろな方と頻繁に会っているのか。自分の行動について、もっと理解してもらう姿勢がなかった」
社長が何をしているのか、社員には見えていなかった。
想像した本音が、一番痛かった
この社長は、退職した社員の立場になって、その人が何を思っていたかを書き出しました。
出てきたのが、これです。
「もっと早い段階で、歩合についての説明をしてほしかった。社長は飲みに行ったりゴルフに行ったりしているのに、私への歩合が遅れるというのは、どういうこと?」
……これ、読んだとき息が止まりました。
言われたわけではありません。社長が自分で想像して書いた言葉です。
でも、たぶん当たっています。
そしてここが怖いところなんですが、この言葉は、辞めるまで一度も口に出されませんでした。
数字が見えないと、人は想像で埋めます
なぜ、こんなことが起きるのか。
社員には、会社の中身が見えないからです。
入金がいつあるのか。今月の資金繰りがどうなっているのか。社長が誰と会って何を進めているのか。
何も見えません。
そして人間は、見えない空白があると、想像で埋めます。
歩合が遅れている。理由は説明されていない。でも社長は外で人と会っている。
この3つが並んだとき、頭の中で何が起きるか。
「後回しにされている」
事実は違うかもしれません。その会食が来期の仕事につながる大事な席だったかもしれない。資金繰りの都合で、社長自身が身を削っていたかもしれない。
でも、言わなければ伝わりません。
そして伝わらない期間が長いほど、その人の中の物語は固まっていきます。
「まぁいいか」の代償
この社長には、もう1つの自覚がありました。
自分の弱みとして、こう書いていました。
- 会社の状況についての説明不足(入出金のタイミングなど)
- コミュニケーション不足
- モチベーションを上げるための声掛け不足
- 雇用に対する知識不足
- 「何とかなる」という、楽観が過ぎた
最後の1つが、一番大きいと思います。
「何とかなる」は、強みに見えます。動じない、腹が据わっている、細かいことを気にしない。
でも裏を返すと、仕組みを作らない理由になります。
契約書を整えるのも、評価制度を決めるのも、面倒です。今日の売上には1円もつながらない。だから後回しになる。
そして「何とかなる」で先送りにしたぶんの請求書が、一番大事な人を失うという形で回ってきます。
先に決めておくべき、5つのこと
同じことを繰り返さないために、決めておくものは、そう多くありません。
- 雇用契約書
- 就業規則
- 歩合や賞与の規定(いつ、何を基準に、いくら)
- 人事評価の基準
- 働き方の指針(リモートを含む)
どれも、地味です。作っても、誰も褒めてくれません。
でも、この5つが決まっているだけで、想像で埋められる空白が消えます。
そしてもう1つ、制度の話ではないものを。
入出金のタイミングを、伝える。
「今月は入金が◯日なので、支払いは◯日になります」
これを言うだけで、まったく違います。遅れることが問題なのではなく、理由が分からないことが問題だからです。
辞めた人は、警鐘です
最後に、この話で一番大事なところを書きます。
優秀な人が辞めるのは、組織へのアラームです。
「もっと良くできることがある」というメッセージが、一番痛い形で届いている。
それを、聞き入れて動くかどうかは、社長次第です。
その社長は、動きました。書き出して、決めて、変えました。
だから僕は、この退職は無駄にならなかったと思っています。一人失って、これから来る人たちを守れる形になったからです。
痛いですが、そういうことだと思います。
まとめ
- 人を辞めさせるのは、待遇ではなく曖昧さ
- 決まっていないと、社員は想像で空白を埋める
- 想像は、たいてい悪いほうに固まる
- 「何とかなる」は、仕組みを作らない理由になる
- 決めるのは5つ。契約書・就業規則・歩合の規定・評価基準・働き方の指針
- 入出金のタイミングを伝える。遅れることより、理由が分からないことが問題
- 優秀な人の退職は、組織へのアラーム
今日、1つだけ決めてみてください。全部でなくていいです。
そして、人が離れていくとき「給料が安いからだ」と思い込みがちですが、たいていの場合、原因はもっと手前にあります。
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