立ち上げから一緒にやってきた社員が、辞めると言ってきた。
まったく予想していなかった。
僕は起業して12年、500名を超える経営者の方と向き合ってきました。この話を聞くと、必ず同じことをお伝えします。
辞めた原因は、その人の気持ちではありません。決めていなかったことです。
「うちは信頼関係でやってるから」
小さい会社ほど、こう言います。
そして、それは嘘ではありません。実際、仲は良い。飲みにも行く。相談もされる。
でも、信頼関係と、決め事は別のものです。
信頼があるから決めなくていい、ではありません。決めていないから、信頼が削れていくんです。
ある社長さんが、社員の退職のあとにご自身で洗い出した項目があります。
これが、驚くほど教科書的でした。5つです。
① 雇用の契約が、書面になっていない
「うちは家族みたいなものだから」と、口約束で始めている会社があります。
これが、いちばん危ない。
もめるのは、辞めるときだからです。
入るときは全員が善意です。だから何も決めなくても回る。でも辞めるとき、双方の記憶が食い違います。
そして、書いていないほうが必ず損をします。
② 評価の基準が、決まっていない
「頑張ってるから、そのうち上げてあげよう」
これ、社長の頭の中にしかありません。
社員から見ると、上がるかどうかが社長の気分次第に見えます。
そして、この状態が続くと、こう思われます。
「この会社にいても、先が読めない」
人は、給料の額そのものより、上がる道筋が見えないことで辞めます。
③ 歩合の扱いが、あいまい
歩合を出している会社は、ここが特に危ないです。
いくらの案件で、いつ、いくら入るのか。取り消しになったらどうなるのか。
この計算を、社員が自分でできますか。
できないなら、あいまいです。
④ 働き方の指針が、ない
在宅勤務を認めている会社で、よく起きます。
何時から何時まで動くのか。何を報告するのか。会社に来るのは週に何回か。
自由にしていいよ、は指針ではありません。
決まっていないと、社員は「これでいいのか」と不安なまま働きます。そして社長は「サボっていないか」と不安なまま見ています。
どちらも消耗しています。
⑤ お金の入りと出のタイミングが、不安定
これが、5つの中でいちばん効きます。
その社長さんは、退職した社員の立場に立って、こう書き出していました。
「社長は飲みに行ったりゴルフに行ったりしているのに、私への歩合が遅れるというのはどういうこと?」
……痛いですよね。
でも、この言葉を自分で書き出せたことが、この方のすごさです。
人は、自分に都合の悪い相手の本音からは、つい目をそらします。
そして、これは金額の問題ではありません。説明がなかったことの問題です。
遅れるなら遅れると先に言う。理由も言う。それだけで、人は待ってくれます。
黙って遅れるのが、いちばん信頼を削ります。
悪い社長だから、起きるのではありません
念のため書いておきます。
この社長さん、人としてはとてもいい方です。
売上が落ちても人のせいにしない。いつも笑顔。社員思い。
それでも、起きました。
なぜなら、優しさは決め事の代わりにならないからです。
むしろ、優しい社長ほど「言いにくいこと」を後回しにします。契約の話、評価の話、お金の話。全部、言いにくいことです。
だから曖昧なまま置かれる。そして、いちばん信頼していた人が離れていきます。
明文化は、社長を守るためではありません
もう1つ、伝えておきたいことがあります。
契約書や規則の話をすると、こう受け取る社長さんがいます。
「自分が訴えられないようにするため」
違います。逆です。
決め事は、社員のためにあります。
想像してみてください。あなたが社員だとして、評価の基準も、歩合の計算も、休みの取り方も、何ひとつ紙になっていない会社にいるとします。
毎日、社長の顔色を読むことになります。
今日は機嫌がいいから聞けそうだ。今は忙しそうだからやめておこう。
この読み合いに、どれだけの気力が使われているか。
決め事があると、この作業が消えます。紙を見ればいいので、社長に確認しなくていい。
顔色を読まなくていい会社は、それだけで働きやすいんです。
そして、社長も助かります。同じ質問を何度も受けなくて済みますから。
「人が増えてから」では、遅いです
もう1つよく聞くのが、これです。
「うちはまだ3人だから、そこまで要らない」
気持ちは分かります。でも、順番が逆です。
3人のうちに作っておくから、10人になっても回ります。
10人になってから作ろうとすると、すでに人それぞれの慣習ができあがっています。それを後から揃えるのは、ゼロから作るより何倍も大変です。
しかも、後から作ったルールは「誰かのせい」に見えます。
「あの人が問題を起こしたから、こうなった」
こうなると、決め事そのものが嫌われます。
誰も何も起こしていない今のうちに作る。これがいちばん摩擦がありません。
まとめ
- 辞める原因は気持ちではなく、決めていなかったこと
- ① 雇用の契約を、書面にする
- ② 評価の基準を、決めて見せる
- ③ 歩合を、社員が自分で計算できる形にする
- ④ 働き方の指針を、決めて渡す
- ⑤ お金の入りと出は、先に説明する
- 優しい社長ほど、言いにくいことを後回しにする
5つ全部やろうとすると、動けません。まず1つ、紙に一行書くところからで大丈夫です。
そして、人が離れていくとき「相手の問題だ」と思い込みがちですが、たいていの場合、原因はもっと手前にあります。
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