「カツ丼税理士」に学ぶ、専門性の尖らせ方

ターゲットを絞りましょう、と言われる。

頭では分かる。でも、怖い。

狭くしたら、その分お客さんが減るじゃないか。

僕は起業して12年、500名を超える経営者の方と向き合ってきました。この不安は、ほぼ全員が通ります。

そして、ほぼ全員が同じところで納得します。

絞ると減る、は逆です。絞らないから、誰にも見つけてもらえないんです。


「うまい醤油ラーメンが食べたい」とき、どこへ行きますか

想像してみてください。

今日は無性に、うまい醤油ラーメンが食べたい。

そういうとき、ガストには行きませんよね。

ガストのラーメンがまずいわけではありません。ちゃんとしています。でも、行かない。

なぜかというと、専門店のほうがうまいに決まっている、と無意識に思っているからです。

これ、人がものを選ぶときに毎回やっていることです。

人は、無意識に専門性の高い人を探しています。

そして「何でもできます」と書いてある人は、その探し方の網に引っかかりません。

減っているのではなく、そもそも見つけられていないんです。


「カツ丼専門の税理士です」

税理士さんの例で考えてみます。

「何でもできる税理士です」

……何も残りませんよね。世の中に何万人といます。

では、これならどうでしょう。

「寿司屋専門の税理士です」

「カツ丼屋専門の税理士です」

急に、頭に絵が浮かびませんか。

そして、ここが面白いところなんですが。

カツ丼屋さんが、この人を見つけます。

さらに、ラーメン屋さんも「近いかも」と思って連絡してきます。定食屋も、そば屋も。

人は、自分に近いものを勝手に関連づけるからです。

「カツ丼専門」と書いてある人を見て、うちは違うからやめておこう、とはあまり思いません。むしろ「飲食のことが分かっている人だ」と受け取ります。

つまり、絞ったことで狭くなるのは看板だけで、来る人の幅は思ったほど狭くならない。


好きなもので尖らせてもいい

もう1つ、別の尖り方もあります。

たとえば、プロレスが好きな税理士さんが、こう名乗る。

「タイガーマスク税理士です」

業種で絞っているわけではありません。でも、これも立派なポジションです。

プロレス好きの経営者が、必ず食いつくからです。そして、その人はもう他の税理士を探しません。

尖らせ方は、業種でも、趣味でも、地域でも、価値観でもいい。

大事なのは、何かの一点で「あ、この人だ」と思われることです。


誰にも受けない人は、どこへ行っても受けません

絞るのが怖い一番の理由は、これだと思います。

「もし誰にも刺さらなかったらどうしよう」

正直に言います。

尖らせて誰にも受けなかった人は、尖らせなくても受けません。

これは意地悪で言っているのではありません。

万人に向けた言葉は、誰の心にも引っかかりません。引っかからないものは、良いも悪いも判断されない。つまり、結果すら返ってこない。

尖らせると、少なくとも反応が返ってきます。「合わないな」と離れる人も出ますが、「それ、私のことだ」と言う人が必ず一人は出ます。

そして仕事は、その一人から始まります。

何も返ってこない状態より、はっきり断られるほうが、はるかに前に進んでいます。


絞るのは、看板だけでいい

もう1つ、誤解を解いておきます。

絞るというのは、他の仕事を断ることではありません。

看板に何を書くか、という話です。

「カツ丼屋専門」と名乗っている税理士さんが、たまたま来た美容室の依頼を断るかというと、断りません。普通に受けます。

看板は入り口であって、鍵ではないんですよ。

多くの人が絞れないのは、ここを取り違えているからです。「絞ったら、それ以外を受けられなくなる」と思っている。

そんなことは起きません。入り口を1つに決めるだけです。

そして、入り口が1つのほうが人は入ってきます。玄関がどこにあるか分からない家には、誰も来ませんから。

いつ広げるか

「じゃあ、いつまで絞っていればいいのか」

これもよく聞かれます。

答えは、その一点で名前が知られてからです。

「◯◯といえば、あの人」という状態を作れたら、そこから横に広げていい。すでに信用の土台があるので、次のものも受け入れられます。

順番が逆だとうまくいきません。知られていない状態で広げると、ただの「何でも屋」になります。

NIKEがランニング以外に手を広げたのも、ランニングで名前が立ってからでした。

相手が違えば、自己紹介も分けてください

もう1つ、実務的な注意点があります。

対象が違うなら、自己紹介を分けてください。

これ、混ぜている人がとても多いです。

個人のお客さん向けの話と、士業や経営者向けの話。1つの原稿で両方に届かせようとする。

でも、個人向けの言葉は、弁護士には響きません。逆もそうです。刺さる痛みが、そもそも別物だからです。

だから、行く場所によって出すものを変える。中身は同じでも、言葉と例を入れ替えるだけでかまいません。

そのためには、相手を徹底的に知る必要があります。

その人は、どんな生活をしているか。何を読んでいるか。何にお金を使っているか。どこで情報を得ているか。

ここまで分かって、はじめてどの言葉で、どこに置くかが決まります。


まとめ

  • 絞ると減る、は逆。絞らないから見つけてもらえない
  • 人は無意識に専門店を探す。「何でもできます」は網に引っかからない
  • 絞っても、近い人が勝手に関連づけて来る
  • 尖らせ方は業種でも趣味でもいい。一点で「あ、この人だ」と思われること
  • 尖らせて受けない人は、尖らせなくても受けない
  • 対象が違うなら、自己紹介を分ける

怖いのは分かります。でも、怖いということは、ちゃんと尖っているということでもあります。

そして、選ばれないとき「まだ実力が足りないからだ」と思い込みがちですが、たいていの場合、原因はもっと手前にあります。

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