商談の終盤。金額を伝えた瞬間の、あの空気。
「……ちょっと高いですね」
心臓がひやっとしますよね。
そして、つい言ってしまう。
「あ、では少しお勉強させていただきます」
僕は起業して12年、500名を超える経営者の方と向き合ってきました。そのうえで、はっきり言えることがあります。
値下げした瞬間、その商談はほぼ終わります。
しかも厄介なのが、下げても買われないということです。
下げると、なぜ買われなくなるのか
考えてみてください。
さっきまで30万円だったものが、その場で25万円になった。相手の頭に何が浮かぶか。
「じゃあ、あの30万って何だったんだろう」
これです。
価格は、その商品の価値をあらわす数字です。それを自分から下げるということは、「さっき言っていた価値は、本当ではありませんでした」と自分で認めたのと同じことになる。
だから、値引きは値引きとして受け取られません。信用の値引きとして受け取られます。
さらに厄介なことが2つあります。
1つは、一度下げた人は「もっと下がるかも」と思うこと。交渉が終わるのではなく、始まるんですよね。
もう1つは、すでに定価で買ってくれた人への裏切りになること。「あの人は安く買えたらしい」が伝わった瞬間、いちばん大事にすべきお客さんを失います。
その場の1件のために、後ろにあるもの全部を差し出している。値下げというのは、そういう取引です。
「高い」は、たいてい値段の話ではありません
では、どうするか。
まず知っておいてほしいのは、「高い」という言葉の中身は、1つではないということです。
大きく2つに分かれます。
1つは、払えない。本当にお金がない。もう1つは、払う価値が見えていない。お金はあるが、その金額に見合うか判断できていない。
この2つはまったく別物なのに、口から出てくる言葉は同じ「高いですね」なんです。
そしてもう1つ。そもそも「高い」は、断り文句として一番言いやすい言葉でもあります。
「あなたを信用していません」とは言えない。「私にできる気がしません」とも言いにくい。でも「高いですね」なら、角が立たずに言える。
つまり、その言葉をそのまま受け取って値段をいじるのは、たいていの場合、見当違いの場所を直しているということなんです。
下げる前に、必ず聞く一言
だから僕は、値段の話に入る前に、必ずこれを聞きます。
「お金のことをいったん横に置いたら、やってみたいという気持ちはありますか?」
この一言で、さっきの2つが分かれます。
「やりたいです」と返ってきたら、値段は問題じゃありません。そこから先は、払い方の話です。分割にする方法もあるし、これから作る売上のイメージを一緒に描いてもいい。
このとき、相手の頭の中にあるのは、たいていお金そのものではありません。「投資して、自分にできるだろうか」という不安です。
だから僕は、こう伝えます。
「個別相談もありますし、徹底的に僕を使ってください。伴走しますから」
金額の話をしているようで、実は不安の話をしている。ここを外すと、いくら値段を下げても決まりません。
一方、「うーん」と濁されたら、そこは価値が伝わっていない場所です。値段を下げても、何も解決しません。もう一度、その人にとって何が変わるのかを話す場面です。
「高いから買う」人は、必ずいます
もう1つ、頭に入れておいてほしいことがあります。
高いから買う人が、一定の割合で必ずいます。
「高い=ちゃんとしたもの」という判断軸を持っている人たちです。この人たちにとっては、安さはむしろ不安材料になります。
安いほうが親切だと思って値段を抑えている人ほど、この層を丸ごと取りこぼしています。
「こんな高い金額、誰も買わないですよ」と言う人がいますが、そう思っているのは売り手だけなんですよね。
お客さんからすれば、選択肢があるだけです。
買うか買わないかを決めるのは相手です。こちらが先回りして「この人には無理だろう」と決めてしまうのは、実はけっこう失礼なことでもあります。
ただし、値段だけ上げるのはダメです
誤解してほしくないので、はっきり書いておきます。
上げるなら、価値を必ず乗せてください。
時間を長くする。特典を付ける。その人だけの特別な体験を入れる。何かを足したうえで、価格を上げる。
値段だけ上げるのは、ただの値上げです。それは相手にも分かります。
順番は、価値が先。値段は後です。
そして、この順番を守っている人は、値下げを迫られること自体が減っていきます。価値がはっきり見えているものに対して、人はあまり値切らないからです。
値切られるということは、価値の輪郭がぼやけているという合図でもあるんですよ。
まとめ
- 値下げすると、信用が下がる。「さっきの値段は何だったのか」と思われる
- 一度下げると、交渉が始まる。そして既存のお客さんへの裏切りにもなる
- 「高い」は、一番言いやすい断り文句。そのまま受け取らない
- 確かめる一言を持つ。「お金を横に置いたら、やりたい気持ちはありますか」
- 相手の本当の不安は「自分にできるか」。伴走を約束する
- 高いから買う人は必ずいる。安くして、その層を取りこぼさない
- 上げるなら、価値を先に乗せる
「高いですね」は、断りの言葉ではありません。まだ伝わっていない場所を教えてくれた合図です。
そして、断られたとき「自分の値段が高すぎるからだ」と思い込みがちですが、たいていの場合、原因はもっと手前にあります。
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