カテゴリー: 聞く力と信頼

  • 沈黙を怖がらない人が、信頼されます

    沈黙を怖がらない人が、信頼されます

    問いかけたのに、誰も答えない。

    3秒。5秒。

    耐えきれなくなって、自分で答えを言ってしまう。

    「……まあ、たとえばこういうことなんですけど」

    あの気まずさ、よく分かります。僕も長いこと、そうでした。

    僕は起業して12年、500名を超える経営者の方と向き合ってきました。そのうえで、はっきり言えることがあります。

    その沈黙こそが、相手の頭を一番動かしている時間です。

    埋めてしまった瞬間、その効果は消えます。


    人の脳には、空白を埋めたがる機能があります

    なぜ沈黙が効くのか。

    人の脳は、空白ができると埋めようとするからです。

    問いを投げられて、答えが出てこない。その数秒間、相手の頭はフル回転しています。「なんだろう」「自分はどうだったかな」と、自分の中を探している。

    このとき起きているのは、自分ごと化です。

    こちらが答えを言ってしまうと、それは相手にとって「聞いた話」になります。でも自分で探して見つけたものは、「自分の答え」になる。

    同じ内容でも、残り方がまったく違うんですよね。

    僕が昔うまくいかなかったとき、何が起きていたか。振り返ってみて分かりました。

    空白が、ゼロだったんです。

    不安だから、しゃべって埋める。しゃべって埋めるから、相手が考える時間がない。考えないから、動かない。


    「集客うまくいってませんよね」は、こちらから言わない

    沈黙と同じ理屈で、もう1つ大事なことがあります。

    相手の痛いところを、こちらから言葉にしない。

    「集客、うまくいっていないんじゃないですか」

    正しい指摘でも、これは絶対に言いません。言った瞬間、相手は防御に入るからです。

    代わりに、こう聞きます。

    「今日は、どうして来られたんですか?」

    すると、本人の口から出てきます。「実は、集客がうまくいっていなくて」と。

    同じ言葉でも、こちらが言うのと本人が言うのとでは、まったく違うものになります。人は説得では動きません。自分で気づいたときにだけ動きます。

    どうしても伝えたいことがあるときは、他人の話にします。

    「以前、こういう方がいらっしゃいました。開業したばかりで、お客さんもゼロで……」

    第三者の物語なら、相手は身構えずに聞けます。そして途中で「あ、これ自分だ」と気づく。

    指摘するのではなく、気づける場所に連れていく。それだけです。


    質問は、答えを知っているものだけ投げる

    沈黙を作るには、投げる問いの質が要ります。

    僕が使っているのは、あらかじめ答えが分かっている問いです。

    その場の思いつきで質問すると、返ってきた答えの扱いに困って、結局こちらが慌ててしゃべることになります。そうやって空白が潰れる。

    だから、こう進めます。

    • 話を曲げる前に、方向を予告する(「ここで1つ、確かめたいことがあります」)
    • 答えの選択肢が絞れる問いを投げる
    • 待つ

    もう1つ、小さいけれど効くコツを。

    手を挙げてほしいときは、自分も一緒に挙げます。

    「◯◯だと思う方、いらっしゃいますか」と言いながら、自分の手を挙げる。すると、つられて挙がります。そして手が挙がった人は「自分だけじゃないんだ」と安心する。

    逆に、挙げてほしくないときは、自分の手は下げたまま聞きます。

    これだけで、場の空気は自分でコントロールできます。


    始まる前に、勝負はついています

    もっと手前の話もしておきます。

    どこに座ってもらうかです。

    セミナーで、後ろの席から埋まっていく。あの状態になると、その日はもう厳しい。距離があるまま終わります。

    昔、僕はここでずっと悩んでいました。「前にお座りください」と言っても、みんな後ろに行く。「ルールなので」と言うと、空気が固くなる。

    答えは、テレビで見つけました。

    ホテルマンが、お客さんにこう言っていたんです。

    「お荷物、お持ちします。こちらへどうぞ」

    これだ、と思いました。

    選ばせないんです。「あちらへどうぞ」でも「お好きな席へ」でもない。「あなたの席はここです」と、案内する。

    それ以来、僕はテキストを最前列だけに置いて、来た人を「こちらへどうぞ」と案内するようにしました。

    それから、前に座らなかった人は一人もいません。


    ぬいぐるみに向かって、練習していました

    「よく話せますね」と言われることがあります。

    でも、最初はまったく話せませんでした。登壇しても、頭が真っ白になって声が出ない。

    だから僕は、家で練習しました。

    部屋に椅子を3つ並べて、プロジェクターを立てて、クマのぬいぐるみを客席に置いて。

    そして、真面目に問いかけていました。

    「田中さん、どう思いますか?」

    ……我ながら、絵面はどうかと思います。でも、これをやらないと本番で言葉が出なかったんです。

    もう1つよく聞かれるのが、「話し方はどこで勉強したんですか」です。

    答えは、寅さんです。

    『男はつらいよ』の、あの間の取り方。俳優さんって、台本があるのに、その場で生まれた言葉みたいに話しますよね。あれを何度も見ました。

    セミナー講師も、同じだと思っています。その場を演じきる人です。

    沈黙が怖いのは、慣れていないからです。慣れは、練習でしか手に入りません。本気で練習したら、できます。才能の話ではありません。


    まとめ

    • 沈黙は、相手が自分ごと化している時間。埋めない
    • 痛いところを、こちらから言葉にしない。「どうして来られたんですか」で本人に言わせる
    • 伝えたいことは、他人の物語にする。指摘せず、気づける場所へ
    • 質問は、答えを知っているものだけ投げる
    • 手を挙げてほしいときは、自分も挙げる
    • 席は選ばせない。「こちらへどうぞ」と案内する
    • 沈黙が怖いのは、慣れていないだけ。練習でしか埋まらない

    しゃべる量を減らすだけで、伝わる量は増えます。

    そして、うまく話せないとき「自分に才能がないからだ」と思い込みがちですが、たいていの場合、原因はもっと手前にあります。

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  • 傾聴には、3つの型があります

    傾聴には、3つの型があります

    「話を聞くのは得意なほうです」

    そう思っている人ほど、実は相手が話してくれていないことがあります。

    うなずいている。相づちも打っている。それなのに、当たり障りのない話で終わってしまう。深いところまで降りていかない。

    僕は起業して12年、500名を超える経営者の方と向き合ってきました。そのうえで断言できます。

    話しやすい空気は、意識の外側で作られています。

    だから、気持ちだけでは足りません。型が必要です。


    その1:同じ言葉で、そのまま返す

    一番簡単で、一番効くのがこれです。

    相手が言った言葉を、そのまま返す。

    「高校のときにですね」と言われたら、「高校なんですね」と返す。

    これだけです。拍子抜けするくらい単純ですよね。

    でも、ここに落とし穴があります。言い換えてはいけません。

    相手が「売上が低迷していて」と言ったのに、「売上が下がっているんですね」と返す。意味は同じに見えますが、その人の中では別の言葉なんです。

    「低迷」を選んだのには理由があります。じわじわ続いている感じ、抜け出せない感じ。その人の実感が、その一語に入っている。

    それを「下がっている」に変えると、実感の部分がごっそり落ちます。

    そして怖いのが、その違和感は口に出ません。顔に出ます。

    「あ、この人には伝わってないな」と、相手が静かに判断して、そこから先の話が浅くなる。本人も、なぜ話す気がなくなったのか説明できません。

    言葉を返すのが難しければ、うなずきだけでもかまいません。「聞いていますよ」が伝われば、それでいいんです。


    その2:相手のスピードに、合わせる

    声のトーン、大きさ、話す速さ。これを相手に合わせます。

    早口の人には、こちらも少し早めに。「そうなんですね、はいはい」とテンポよく。

    ゆっくり話す人に、早口で返してはいけません。それだけで、相手は置いていかれた感じになります。

    呼吸を合わせると言ったほうが、近いかもしれません。

    僕はサラリーマン時代、クレーム対応の部署にいました。社内で「特殊部隊」と呼ばれていた場所です。ヤクザみたいな勢いで怒鳴り込んでくる方も、普通に来ます。

    そこで体で覚えたのが、これでした。

    興奮している相手には、一度こちらも合わせる。

    最初にやりがちなのは、「まあまあ、落ち着いてください」です。これは火に油なんですよ。落ち着けと言われて落ち着いた人を、僕は一人も見たことがありません。

    だから、まず合わせます。相手の勢いに、こちらのトーンを寄せる。それから、少しずつ速度を落としていく。

    すると、相手も一緒に降りてきてくれます。

    先に落ち着かせようとするのではなく、一緒に降りる。この順番です。


    その3:仕草を、少しだけ真似る

    相手が足を組んだら、こちらも自然に組んでみる。相手の目線が下がったら、一緒に下げる。

    これも、無意識の領域に効きます。

    やりすぎると気持ち悪いので、あくまで自然に。似ている人には気を許すという、それだけの話です。

    3つの中では一番おまけ的な位置づけですが、覚えておくと、相手が黙り込んだときに役立ちます。


    実は、座る位置が一番大きい

    3つの型よりも、もっと手前で決まってしまうことがあります。

    どこに座るかです。

    四角いテーブルで、真正面。この配置は、それだけで威圧感が出ます。相手は無意識に身構えます。

    思い出してほしいんですが、カウンターで飲むと、なぜか話が弾みませんか。

    同じ人と、同じ時間、同じ話をしているのに、正面で向き合うより明らかに話が出てくる。

    あれは偶然ではありません。目を合わせ続けなくていいからです。正面だと、視線を外すことが「そらした」ことになる。横並びなら、前を見ているだけで自然に外れます。

    人は、逃げ場があるほうがよく話すんですよ。

    だから僕は、大事な話ほどカウンターを選びます。スペースがなければ、自分の体や膝を少しずらすだけでもいい。

    セミナーの椅子も、まっすぐには置きません。必ず少し斜め、交互にします。僕のセミナーに、まっすぐな椅子は一つもありません。それだけで場の空気が変わります。


    ただ、これ全部より大事なことがあります

    ここまで型の話をしてきて、ひっくり返すようなんですが。

    姿勢がなければ、この3つは全部死にます。

    どれだけ上手にオウム返しができても、「早く決めてくれないかな」と思いながらやっていたら、伝わります。逆に、本当にその人のことを思っていれば、多少ぎこちなくても伝わるんですよ。

    以前、受講生同士でこんなワークをやったことがあります。

    1分間、片方が少しつらかった話をする。もう片方は、わざと聞かない。目も合わせない、あくびをする、興味なさそうにする。

    そのあと、話し手に感想を聞きました。

    「自分で自分に言っている感じで、全然話が出てこなかった」

    たった60秒です。

    次に立場を替えて、今度はきちんと聞いてもらう。うなずいて、同じ言葉を返して、一緒に驚く。すると、こうなりました。

    「情景が頭に浮かんで、もっと伝えたくなった」「時間の流れ方が、全然違った」

    同じ1分なのに、です。

    聞かれ方ひとつで、相手の中の世界がここまで変わる。だから僕は、テクニックの前に姿勢の話をします。


    姿勢を持つと、こんなことが起きます

    もう1つ、実際にあった話を。

    フロントセミナーで、明らかに態度の違う方がいました。ずっとスマホを見ている。

    昔の僕なら、その人にイライラして、そちらばかり気にしていたと思います。

    でもその日は、正直に言いました。

    「今日、なんだか気持ちが違うのであれば、この場で退席いただいても大丈夫ですよ」

    これは嫌味ではありません。本気で来ている人の時間を守りたかった、それだけです。

    そうしたら、思ってもみないことが起きました。

    隣に座っていた方が、その場で申し込まれたんです。セミナーが始まって、まだ15分でした。

    「この人が本気でやっているのが分かった」と、後で言われました。

    さらに、退席を促した本人からも、後日メールが来ました。

    「大変失礼しました。すごく感動しました。お金が貯まったら、先生のところに行きます」

    誰に向かって何をするのかを守る。その姿勢そのものが、一番強いメッセージになることがあるんですよね。

    そしてもう1つ。場に一人「聞かない人」がいても、そこに引っ張られないでください。

    その一人にイライラして場の空気を汚すと、ちゃんと聞いてくれている9人が犠牲になります。見るべきは、その9人です。


    まとめ

    • 同じ言葉で返す。言い換えると、実感が落ちて違和感が顔に出る
    • できなければ、うなずきだけでいい
    • 相手のスピードに合わせる。興奮している人にも、まず合わせて一緒に降りる
    • 仕草を少しだけ真似る。やりすぎない
    • 座る位置を変える。真正面を避けて、カウンターか、体を少しずらす
    • 姿勢がなければ、全部死ぬ
    • 聞かない一人に引っ張られない。残りの9人を見る

    いきなり全部はできません。まず、うなずきからでいいんです。次に「それは大変でしたね」と一言返せるようになる。1つずつ積んでいけば、必ず身につきます。

    そして、相手が話してくれないとき「自分に人望がないからだ」と思い込みがちですが、たいていの場合、原因はもっと手前にあります。

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